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「AIが仕事を奪う。」
生成AIの話題になると、そんな見出しを目にする機会が増えました。
ただ、企業で起きる変化はもう少し地味かもしれません。それでいて、影響は意外と大きい。人を減らすのではなく、「新しく採らなくなる」という変化です。
AIによって中堅社員の仕事が効率化されれば、これまでより少ない人数でも業務が回るようになります。そうなれば、新卒採用を今まで通り続ける理由は薄れていくでしょう。
もちろん、企業にとっては自然な経営判断です。ただ、その判断を多くの企業が同時に選んだとき、社会全体では別の問題が起きるかもしれません。
今回は、「若手を採らない社会」は本当にやって来るのかを考えてみます。
AIによる雇用への影響というと、多くの人はリストラや人員削減を思い浮かべます。
でも実際の企業は、そこまで急激には動きません。
例えば、これまで10人で回していた部署が7人でも問題なく運営できるようになったとします。
その場合、多くの企業は3人を解雇するより、退職者が出ても補充しない、新卒採用を減らす、といった方法を選ぶでしょう。
その方がコストも低く、社内の反発も少ないからです。
こうした変化は派手ではありません。しかし、何年も積み重なれば採用市場は大きく変わります。
生成AIは、経験がある社員ほど使いこなしやすいツールです。
企画書を作る。プログラムを書く。データを分析する。メールを作成する。
こうした仕事では、AIが作業時間を大幅に短縮してくれます。
ただし、AIが仕事を代わりに考えてくれるわけではありません。
経験者が持っている知識や判断を、これまでより速く形にできるようになる。それが一番大きな変化です。
結果として、一人で二人分近い仕事をこなせる場面も珍しくなくなるでしょう。
その一方で、新卒社員はすぐに戦力になるわけではありません。
仕事を覚えるには時間が必要ですし、その間は先輩社員が教える時間も必要になります。
AIによって中堅社員の生産性が上がれば、その人たちの時間は以前より価値が高くなります。
すると、「新人を育てる時間」も以前より高く感じられるようになります。
以前なら当然だった教育が、「その時間で仕事を終わらせた方が早い」と考えられてしまう可能性があります。
そうした判断が積み重なれば、新卒採用は少しずつ減っていくでしょう。
企業が求める人材も変わります。
経験者であればAIをすぐ仕事に活用できます。
第二新卒や中途採用、専門スキルを持つ人材への需要は今より高まるでしょう。
企業から見れば、ゼロから育てるより、すでに経験を積んだ人を採用した方が効率的だからです。
ここで誤解してはいけないのは、「若手を採らない企業」が悪いという話ではないことです。
企業には利益を出し、競争に勝ち続ける責任があります。
必要な人数が減ったなら採用を減らす。教育コストも抑えられる。採用のミスマッチも減る。
一社だけ見れば、ごく普通の経営判断です。
問題は、それをほとんどの企業が同じタイミングで選んだ場合です。
経験者は最初から経験者だったわけではありません。
誰かが新人として採用し、仕事を教えたから経験者になれたのです。
もし育成する企業が減れば、若者は最初の一歩を踏み出しにくくなります。
「経験者しか採らない社会」では、新しい経験者は生まれません。
採用を減らす効果はすぐに現れます。
しかし、その影響は数年後にも表れます。
育成された人材が少なければ、中堅社員も不足します。
そうなれば企業は限られた経験者を奪い合うことになります。
採用を減らした結果、人材不足が深刻になるという皮肉な状況も考えられます。
最初の就職先で経験を積める人と、そうでない人との差は以前より大きくなるでしょう。
学生時代からインターンや個人開発などの経験がある人は評価されやすくなります。
反対に、最初の一社に入れなかった人は経験を積む機会そのものを失いかねません。
少し極端ですが、この構図は就職氷河期を思い出させます。
当時も企業は採用を大幅に減らしました。
その結果、一つの世代全体が長い間影響を受けることになりました。
もちろん今回は景気が原因ではありません。
背景にあるのはAIによる生産性の向上です。
だからこそ、一時的ではなく長く続く可能性があります。
とはいえ、新卒採用が完全になくなるとは考えにくいでしょう。
製造業や医療、建設、インフラ、研究開発などは、長い時間をかけて人材を育てる必要があります。
企業文化を引き継ぐという意味でも、新卒採用は今後も続くはずです。
一方で、事務職やバックオフィス、IT、マーケティングなど、AIの影響を受けやすい職種では採用人数が減る可能性があります。
「採用がなくなる」というより、「以前ほど採らなくなる」と考える方が現実に近いでしょう。
ここには一つの矛盾があります。
どの企業も育成をやめれば、市場には経験者がいなくなります。
結局、誰かが新人を育てなければ人材市場は回りません。
そう考えると、AIを活用しながら若手を育てられる企業は、将来的に人材確保で有利になる可能性があります。
採用を減らすことだけが正解とは限らないのです。
これからは「入社してから育ててもらう」という考え方は通用しにくくなるかもしれません。
学生のうちにインターンへ参加する。個人開発をする。研究や資格取得に取り組む。
内容は何でも構いません。
採用担当者が「この人は仕事を任せられそうだ」と感じられる材料を持っている人は、これまで以上に強くなります。
生成AIを使えることも大切です。
ただ、それ以上に重要なのは、AIを使って何を作ったのか、どんな経験を積んだのかです。
AIが普及したからといって、新卒採用がすぐになくなるとは思いません。
ただ、「AIで仕事が回るなら採用を減らそう」と考える企業は確実に増えていくでしょう。
その判断は、一社だけを見れば合理的です。
しかし、それが当たり前になると、今度は新人が育たなくなります。
数年後に不足するのは仕事ではありません。
育った人材です。
AIが人の仕事を奪うのか。それはまだ分かりません。
でも、新人が経験を積む場所が少しずつ減っていく。その変化は、すでに始まっているのかもしれません。
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